心を打たれたスポーツフィルム vol.1 枝優花
SPORTS FILMS THAT MOVED ME.
スポーツを題材にした映画に傑作がたくさんあるのは周知の事実。ストーリーや絵はもちろんですが、勝者と敗者の光と影、仲間との時間やチームワークの大切さ、恩師との出会いや関係性など、実際にスポーツをするうえでの感動や高揚感がぎゅっと凝縮されて追体験を味わえるのが魅力だと言えます。今回は、注目の若手映画監督が、おすすめムービーをリコメンド。第一回は、初の長編作『少女邂逅』で注目を集め、テレビドラマやミュージックビデオでも活躍する枝優花さんに聞きました!



- 枝 優花/YUUKA EDA
- 「学生生活ではメインでキャッキャするタイプではなかったですね。集団に属して上下関係のなかで腕を磨くより、楽しいから1人で何かを始めちゃうほうが性に合っていて。私の場合はカメラですが、スポーツフィルムでも師匠について学ぶ正規ルートより、好きなことを探求して、ないところに自分で道をつくって歩いていくストーリーに共感します。人生の喜びって自分を知ることだったり、苦しいのがわかっていながら知らない世界に飛び込んでいって、大怪我しながら理解することだと思うんです。だから、同じタイプのキャラクターが映画に出てくるとすぐ好きになっちゃうんですよね」
いま関心のあるスポーツ
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スケートボード
「例えばアメフト部やラグビー部、バスケ部などのグループに属さず、ちょっと学校に馴染めなくてはみ出し者になっている人。彼らが自分で見つけた唯一の場所で、お互い家族のことなど悩みは言わないけど、そこにいるときは仲間と心が繋がってる……。そういうのがスケートカルチャーにはあるのかなぁと思ったのが、興味を持った理由です。人付き合いが苦手でもこの板があればみんなと話せる! とか、“競技”というよりもコミュニケーションの要素が魅力的。細かいルールやトリックは知らないですけど、スケートって楽しいよねという気持ちで人種や年齢を超えて繋がれる感じや、お互いをリスペクトしている関係性が美しいと思います」
おすすめのスポーツ映画
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『mid90s』
『mid90s ミッドナインティーズ コレクターズ・エディション Blu-ray BOX』
¥11,000(税込)発売元:トランスフォーマー 販売元:TCエンタテインメント
© 2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
「この作品は好きなポイントがふたつあって。ひとつは主人公が憧れる、仲間内で誰よりもスケートがうまいレイに板を貼ってもらうところと、2人で長い道を滑るシーン。登場人物のなかではレイが誰よりもいろんなことを背負ってるのに、多くを語らず『そんなところで悩んでないでこっち出てこいよ』といういちばんの希望を話すんです。ほかのキャラクターはまだいろんなことに葛藤している最中だけど、彼は多分もう“通り抜けた人”なんですよね。絶望の中にいないで希望を見出そうという気持ちを、彼の言葉ひとつひとつに感じます。レイのような、なにかのタイミングでいつも助けてくれる人に出会えればどんなに孤独でも救われていくし、きっとこの主人公も誰かにとってのそういう存在になっていくんだろうな。観ていて私も救われました。もうひとつは主人公の兄について。弟目線ですべてのストーリーが進むので、観客は主人公の気持ちに寄り添いがちだけど、兄の気持ちが少しわかるように惨めさや苦しさを撮ってるのが監督の優しさだなと思います。私はきょうだいモノに弱いんですが、この作品は関係性を対等に、どっちの言い分も描いているのがいいんです」
STORY
舞台は1990年代のロサンゼルス。シングルマザーのダブニーと兄のイアンと暮らす13歳のスティーヴィー(サニー・スリッチ)。兄からたびたび暴力を振るわれ家に居場所がない彼が出会ったのは街のスケボーショップに集まるちょっと年上の少年たち。やがてグループに入れてもらうが、仲間もそれぞれ問題を抱えていることを知る。
『行き止まりの世界に生まれて』
『行き止まりの世界に生まれて Blu-ray』
¥5,280(税込) 発売・販売元:TCエンタテインメント 提供:ビターズ・エンド
© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
「この作品はドキュメンタリーですが、個々の辛いエピソードを映しつつも、スケート中の“本物の瞬間”を撮っているのがいいんです。例えば彼らがドアップでカメラに対してしゃべったり、やめてよってふざけてたり。のびのびとスケートしているシーンがあるからこそ、人には言えないことを抱えている人間のレイヤーがすごく伝わります。冒頭でスケートしてるときの笑顔は本物ですよね。カメラの前だとやっぱりみんな取り繕うし、こわばるし、あの距離感であの笑顔ってなかなか見せられないんですよ。被写体が心を許してるのがわかりますし、積み上げてきた関係性やカメラマンの人間力を感じます。結局フィクションだろうがノンフィクションだろうが、どれだけ誠実に、その人間に寄り添えるかが勝負。ドキュメンタリーはシナリオはあったとしても嘘がないものを撮っていますよね。フィクションはもちろん嘘が多いんですけど、やってることは同じで役者さんは生身の人間だし、現場で起きていることや感情は本物じゃないですか。作品のなかに“本物”が映ってれば映ってるほど、例え絵が汚くてセリフは何言ってるかわからなかったとしても美しく感じるもの。私も宝物みたいな一瞬を逃さないように命をかけて撮っているのですが、ドキュメンタリーはそういう瞬間がぎゅっと詰まってるから、ある意味勝てないなって思ったりもするんです」
STORY
全米でもっとも惨めな街と言われるイリノイ州のロックフォード。そこに暮らす中国系アメリカ人のビン・リューがスケート仲間の黒人少年キアーと白人青年のザック、また自分自身にカメラを向ける。3人はともにスケートボードを楽しむ仲間だが、それぞれが貧しく暴力的な家庭環境に傷つきトラウマを抱えているのだった。
PROFILE

1994年生まれ。2017年初長編映画『少女邂逅』がロングランヒットを記録、海外映画祭でも高い評価を得る。ドラマ、MV、映画など映像作品を手がけながら、写真家としても活動中。最近では短編映画『Petto』(主演:吉田美月喜)、短編映画『息をするように』(主演:伊藤万理華)、WOWOWオリジナルドラマ『神木隆之介の撮休』(第4話演出)、ドラマParavi『みなと商事コインランドリー』(第5~8話演出)ほか、WOWOWドラマ『ダブル』ではスチール撮影も手がけている。